自由の楽園
「今日から俺は念願の一人暮らしだ!」
そう思う一人の男性、翔(カケル)は喜びに満ちていた。
今年から大学生となった翔はその大学がある「東の京」に上ったのであった。そしてアパートの一部屋を借り、そこで暮らすことになったのだ。
「これでやりたい放題だ。あの家族と離れることができたしな。これぞ『自由』、そしてこの場は『楽園』だ!」
翔はそう信じてたまらなかった。
とある寂しさ
さて、翔は大学で友達ができた。仲も深まったある日、友達はこう翔に訊いた。
「翔ってアパート借りて一人暮らししてるんだよね。今度遊びに行っていい?」
その提案に翔は一瞬、一人暮らしの自由を脅かされるのではと、心の中で恐れた。
だが、その友達とは仲も良いし、一度ならいいかなと思い、了承することにした。
そして、友達を自分の部屋に呼んだ翔は意外なことに、結構な楽しさを感じた。それは部屋に一人で居るよりも楽しい時間であった。そして、その友達が帰った後、言いようのない寂しさを感じた。しかし、友達に何度も来てもらうのも悪いと思い、悩んでしまった。
孤独を埋めるもの
そんな中、近所にあったペットショップが目に入った。そして翔はあることを閃いた。ペットを飼おう、という閃きが。
だが、今のアパートではペットは基本的に禁止であった。しかし、小動物なら許されるのではと思い、大家さんに交渉してみたところ、許可が得られた。
そして翔は、大家さんの了承で「はつかねずみ」を飼うことにした。
実は幼い頃から翔はネズミが好きであった。当時のアニメなどで可愛く賢く描かれるネズミは、翔にとっては憧れであった。
そして、はつかねずみに「しろ」という名前を付け、かわいがるようになった。
ペットとして飼ったはつかねずみ、しろはネズミらしく可愛くて頭が良かった。
しろが木の棒に上った時に、翔がおやつを与えるようにしていると、しろは自分から木の棒に上るようになった。
また、夜行性のため、夜に消灯して寝ようとすると、逆にしろは起き出して回し車を回し始めるのであった。
「しろー、うるさいぞー!」
眠りながら、しろに文句を言う翔であったが、怒りよりも孤独を埋めてくれたこのはつかねずみへの愛情が勝っていた。
孤独の再来
ところが数ヶ月後、翔が帰ってくると悲しい場面に出くわしてしまった。
「し…しろーっ!」
なんとしろが死んでしまっていたのだ。
翔の悲しみは相当であった。
「これでまた一人暮らしか…、いや、俺は…『独り暮らし』になったんだ…。」
そう自分で自分を揶揄し、翔は寂しい日々に戻ってしまった。
希望の網
そんな中、世の中にインターネットなる情報網が流行っていった。そのうちのあるコンテンツで写真や動画を載せられるものがあった。興味を持った翔は嘗て生きていた頃のしろの写真と動画を載せることにした。可愛い姿と、木の棒に必死に上る姿…、しかし最初はあまり反響が無かった。ネズミは大抵の人は嫌がるからであった。
そのまま翔はそれらをネットに載せておいた。
真の楽園
そんなある日、しろの動画に誰かからのメッセージが来ていた。内容を見ると翔と同じくネズミが好きであるという人からであった。内容は次のようであった。
「おやつを欲しがって自ら木の棒に上るなんて可愛いですね。やっぱりねずみは賢いのですね。」
そしてメッセージは続いていた。
「この目で実物を見てみたいです。」
そのメッセージを見て、翔はいくらか後悔した。しろが死んだことはネットには書かなかったからだ。なので翔はこう返信した。
「動画のはつかねずみはもう死んでしまった。会わせることはできないんだ。」
するとこのような返事が返ってきた。
「そうなんですか…悲しい思いをしたのですね。でもねずみが好きなあなたにも興味があります。今度お会いしませんか?」
話によると、その人も「東の京」に住んでいるようであった。少し悩んだが、共通点を頼りにして、翔は実際に会う約束をした。
翔が会ったねずみ好きの人は女性であった。だが、話が合い、そしてお互いの気が合うようになった。二人が恋人になるのはそう時間はかからなかった。
やがて翔は彼女と同棲することにした。そして結婚も間近であった。
愛する人との共同生活。これが真の【楽園】なのだと翔は幸せを感じていたのであった。