近未来、人類は皆VVを着けて生活していた。VVとはvisible valueと呼ばれる眼鏡のようなもので、それを着けるとあらゆるものが数値化されて情報として人に与えられるのであった。
そしてここはとある中学校。今はお昼時であった。
「弁当のおかず交換しようぜ!」
そう言って生徒達は眼鏡のようなものを着けながらお互いのおかずを眺める。
「あ、このミニトマトも~らい!良味度86%だ!」
「おい、甲斐!お前いいVV着けてるからって抜け駆けするなよ!」
「いいじゃないか、ははっ(笑)」
甲斐と呼ばれた男子の着けたVVの視界には86という数値が映されていた。それに対し、ほかの男子が性能の低いVVでおかずを見る。その視界には漢字の優の字しか浮かんでいなかった。
「俺のじゃ優か劣かしかわかんねーよ!」
そして別の男子も甲斐のVVを賞賛した。
「僕のは5段階見れるけど、甲斐の百分率にはかなわないよ!」
「ほんと甲斐のVVはいいよな~性能がハンパないぜ!」
「まあな~」
甲斐と呼ばれた男子は自信気に応える。
「それにしてもいいよな。運とはいえ、世界最高のVVが当たるなんてよ!」
「そうそう、しかもそれは世界で一台だけの最新VVなんだろ?まさか甲斐のやつが当選するなんて、うらやましいぜ!」
そう言いながら、甲斐の友達はそのVVがあたるというキャンペーンのポスターをまじまじと見つめる。
そのポスターにはこう書かれていた。
「「今までにない、世界唯一の最高アルティメットVVがあなたのもとへ!当選者はたったの一名!」」
「「百分率の測定に加え、さらなるバージョンアップも確約!」」
ポスターを見直した甲斐は言った。
「へへっ、これは俺だけの最強VVさ。誰にも渡さないで、俺だけが恩恵を受けるんだ!」
さて、下校時間となり、帰り支度を終えた甲斐は外へ出て空を眺めていた。
「今日の降水確率は15%か。雨の心配は無さそうだな。」
甲斐が何気なく天気をVVで測っていたその瞬間…!!!
ボカァッ!!!
突然の背後からの衝撃を受けた甲斐はそのまま前に突っ伏した。
「うわぁっ!」
驚きの声を上げる甲斐。その甲斐の視界には、自分をこのような状態にした人物が映っていた。
「そのVVをよこせッ!!!」
それは強盗であった。背も高く、強そうな外見であり、中学生の自分にはとうてい太刀打ちできないと思われた。
だが、甲斐は自分の何よりの宝であるVVをそう簡単にその強盗に奪われるのに反抗した。
「こいつは俺のものだ!渡すもんか!!!」
甲斐はVVを必死に押さえた。強盗も強盗で力ずくでVVを引っ張り上げる。
そして……
バキィッ!!!
攻防により、甲斐のVVは真っ二つに割れ、壊れてしまった。
「チッ・・・!」
もはや自分が盗もうとしていたVVが壊れたことに強盗は諦めて、すぐさま逃げ出していった。
「ちくしょう、なんて野郎だ!」
甲斐は怒りに震えていた。しかし冷静になり、その壊れたVVを持ってある場所へ向かった。
その次の日、甲斐はVVを装着せずに学校に来た。すぐさま友達が尋ねる。
「おい、甲斐。どうしたんだ?あの最高VVを着けてないなんて。」
「ああ、こういうことがあってな・・・」
甲斐は昨日の強盗とその後のことを話した。
「それは災難だったな。でも修理の権利はお前にあって良かったな。」
「そうさ、一週間もあればまたあのVVが使えるようになるから安心したよ。それにバージョンアップもしてくれるらしいな。楽しみだな。」
無事に修理が可能であることで、甲斐は安心していた。だが…
「でもあのVVが無いと不便だなぁ。それに修理代もかかっちゃったから代用機も買えないよ。」
そして甲斐は強い口調で続けて言った。
「修理が終わって戻ってきたら、もう誰にも渡さないぞ!!!」
しばらくすると先生が授業を始めるためにやってきた。
「おい、君たち、授業を始めるぞ。おっと、その前に転校生の紹介だ。」
先生の言うとおり、転校生らしき女子が隣に立っていた。その子は自己紹介を始めた。
「美輝です。みなさんよろしくお願いします。」
その子は美人で綺麗な女子だった。だが、あるものが無いことに皆注目した。彼女はVVを着けていなかったのだ。
しかし、その綺麗さは相当なものであったので、生徒は皆疑問に思いつつも、賞賛していた。
「美人さんだね。いいなぁ~」
「でもなんでVVを着けてないんだろう?」
「そんなことはどうでもいいよ。俺は付き合ってみたいなぁ~」
女子には賞賛され、男子には惚れられる。そんな美輝に甲斐も惚れていた。
さて、そのまま授業が始まり、休み時間に入った時であった。
「はじめまして、あなたのお名前は?」
美輝は急に甲斐にそう尋ねた。それに対し甲斐は少し驚きながら元気そうに応える。
「…!…俺の名前は甲斐だよ!」
「それじゃあ甲斐くんって呼んでいい?」
「ああ、いいよ。じゃあ俺は美輝って呼んでいいか?」
「いいわよ。よろしくね、甲斐くん!」
そんなやり取りを見て、周りの男子はヒューヒューと茶化していた。
その後、美輝の居ない所で甲斐はほかの男子と美輝の話をしていた。
「いいなぁ、甲斐。あの綺麗な転校生と仲良くなれて。」
憧れの眼差しを受けて甲斐は得意げになる。
「へへっ、いいだろう」
しかし、なぜ甲斐が話しかけられたのかについて男子は皆疑問に思っていた。
「でもなんで甲斐と仲良くなろうとしてるんだろう?」
「あっ、きっと甲斐があの最高VVに当選したことを知ってたんだ!」
「いいなぁ、甲斐~。あんまり俺たちを妬かせるなよ!」
友達の意見が飛び交う中、甲斐は嬉しい反面、残念にも思っていた。
「あの子ともっと仲良くなれたらなぁ。それにVVが壊れてなければより好印象だっただろうに…。」
一方で甲斐は美輝のほうから話しかけられた自信からこうも考えていた。
「でももしかしたら今の俺でももっと好かれるかも…!頑張ってみよう!」
さて、放課後になったあたりに皆のいる前で、早速甲斐は美輝を遊びに誘った。
「なあ、美輝。今度の休日、遊びに行かないか?」
「えっ!いいの?」
誘われた美輝は嬉しそうだった。そして美輝は快く引き受けたのであった。
「甲斐くんとお出かけできるなんて私嬉しい!一緒に遊びましょう!」
美輝はとても嬉しそうにしていた。そんな様子を見て、甲斐も嬉しくなったのであった。
「「俺と遊べることをこんなに喜んでくれるのか…これはうまくいきそうだぞ……!」」
さて、二人が遊ぶ予定の休日になり、甲斐は待ち合わせ場所にいた。
「結構混んでるな。それに美輝はどんな格好してくるんだろう…こんな人混みじゃあ美輝を捜すのも大変だなぁ…あ~あ、VVがあればすぐ分かるのに…」
そう思っていた矢先、甲斐を呼ぶ声があった。
「甲斐くーん、良かった、ちゃんと待ち合わせできて!」
その美輝の服装といい、髪の縛り方といい、学校の制服姿と違って、甲斐にはよりいっそう綺麗に見えた。思わず美輝をほめる甲斐。
「す…素敵だね…!」
「…!ありがとう!ちょっとおしゃれを頑張ったの!」
自分のためにおしゃれを頑張ってくれたことを知り、甲斐はますます美輝に惚れてしまったように思えた。
さて、二人はお昼時になったので、どこかで外食をすることにした。
「おなか空いたね~、どこで食べようかしら?」
「そうだな…」
店を選ぶ際、甲斐はいつものように良い店を探そうとしたが、VVが注文中なので無かった事を思い出し、少々慌てた。
「「くそッ…せっかくのデートなのに最高の店を紹介できないなんて、これじゃ美輝を喜ばせられないな……」」
そんなことを思っていると、美輝があるお店を指で指し示す。
「あ!あそこのレストランはどう?私がよく行く店なのよ!」
その指の先には確かにレストランはあったが、豪華な店でも有名な店でもなく、聞いたことのない名前の個人経営のお店であった。
その店を見た甲斐はあまり良い印象を持てなかった。
「「知らない店だし来たこともない店だな。本当においしいのか?」」
だがここで断って美輝の好意を無くすよりは我慢して食べよう、そう甲斐は心に決め、美輝に同意した。
「いいぜ、美味しそうじゃん!」
さて、店内に入るとお店の主人が出迎えた。
「やあ、いらっしゃい!ん…美輝ちゃんじゃないか!」
「こんにちは!泰三さん!」
「おやおや、そちらの男の子はお友達かい?それとも…?」
お店の主人の泰三さんとやらに勘ぐられ、一瞬焦る甲斐。だがそれに対し、美輝は微笑みながら応える。
「私の転校先で出会ったお友達よ!泰三さん、いつものをお願い!」
「はいよー!」
甲斐は美輝がそこまで深くつっこまれないように流してくれたことは嬉しかったが、お友達だと紹介されただけだったのがちょっと残念に思った。
「美輝、いつものってなんだい?」
「ああ、これよ」
美輝が取ったメニューのページにはエビフライセットとやらの写真が載っていた。その写真の写りはあまりよくなく、美味しそうには見えなかった。VVで味を調べたかった甲斐であったが、そのVVが無いので食べないことには味を調べることはできなかった。
「甲斐くんもこれにする?」
そう訊かれて甲斐はまたしても美輝に合わせようとして応えるのであった。
「…俺もそれにするよ!」
さて、2つのエビフライセットが二人の前にそれぞれ出された。実物もあまり美味しそうには見えないエビフライであったが食べるほかないと甲斐は嫌そうな気持ちであった。
「いただきます!」
そう言って美輝は美味しそうにエビフライを食べる。気がつくと甲斐は美輝が食べている様子に注目していた。それを見て美輝は不思議そうにこう言う。
「…?甲斐くん、食べないの?」
そう言われ、はっとしてエビフライを食べる甲斐。すると…
「…!美味しい!」
エビフライの味は見た目よりも思ったよりも美味しかった。
「でしょ?泰三さんの作る料理は美味しくて、エビフライは特に自信のある美味しさなのよ!」
「本当に美味しいな!美輝、美味しいお店を紹介してくれてありがとう!」
いつもVVで測った特上の食べ物ばかり食べていた甲斐であったが、見かけが悪く、普通なら避ける料理が想像以上に美味かったことに対し、感慨深い思いをしていた。
さて、昼食を食べ終わった二人は公園の中を歩いていた。
そんな中、急に天気が曇ってきたことに二人は気づいた。
「えっと、降水確率は……あ…!」
思わずまたVVで降水確率を調べようとした甲斐であったが、無いことを思い出し、とっさにうまく取り繕(つくろ)う。
「あ…雨が降るかもしれないけどまだ大丈夫そうだね。」
美輝もその話に合わせる。
「そうみたいね。」
だが、曇りのままと思われた天気であったが、急に雨が降り出した。あわてる二人。そして近くの大木の下で雨宿りする。そしてVVがあれば、と悔やみながらこう思った。
「「くそッ、VVさえあればもっといい場所で雨宿りできたのに・・・」」
しかし美輝は少し喜んでいるようだった。そしてこう言った。
「雨が降って残念だわ。だけど・・・」
続けて美輝は言う。
「こうして甲斐くんと一緒にいられるだけで私は嬉しいわ。」
「そうか?お…俺も…嬉しいよ…」
思わぬ会話に甲斐は喜んだ。綺麗な美輝が俺と一緒にいられるのを喜んでいる、そう思うだけで甲斐の心は躍った。そう考えると、甲斐はVVなんて無くても幸せだと思うようになった。
そしてお互い雨の中であったが楽しい会話をした。
そんな中、美輝が唐突にこう尋ねた。
「ねえ、甲斐くんはVVのことどう思う?」
「…うん…まあ便利だけど……俺は…」
甲斐はこの一日で自分の最高VV無しでも十分に幸せであったことを振り返っていた。また一方で、自分に最高のVVがあることを言いたかったが、VV無しでも喜んでくれている美輝に悪い思いがして、こう言った。
「俺はもうVVはあっても無くてもいいと思うんだ…」
それは今までの自分では到底言える言葉ではなかった。すると美輝は話を続けた。
「そうだよね、確かにVVがあれば便利かもしれないわ。けれど私はもう要らないと思うの。」
突然の美輝の言葉に甲斐は驚く。美輝は続けた。
「今はまだ詳しくは言えないけど、何もかも分かった世界の中では生きたくないの。」
「そうか…」
美輝の隠し事に少し疑念を抱いた甲斐であったが、深くは考えなかった。
その晩、家に帰った甲斐は修理され、バージョンアップされたVVが届いていたことに気づいた。
箱には「新機能:人の信頼度と発言の信頼度が見れます!」とあった。信頼度…?以前の自分は喜ぶ機能であったが、甲斐はもはやそこまで必要性を感じず、VV自体も着ける気にはならなかった。
そんな休日が終わり、普段通りの学校生活が始まった。そんな中…
「弁当のおかず交換しようぜ!」
そう、いつものようにお弁当の食べ合いが始まったのだ。
「おい、甲斐!お前のエビフライ一本もらっていいか?」
話しかけられた甲斐は何も考えずに応える。
「いいよ」
「じゃあこっちのでいいか?」
「ああ」
そして男子は許可をもらった方のエビフライを食べる。その後こう言った。
「お前VVが無いと何も分からないんだな(笑)残った質の悪いエビフライでも食べてろよ(笑)」
「なんだと?」
茶化された甲斐は怒る。続けざまに男子達はさらに甲斐を茶化し始めた。
「ホントホント、甲斐はVVが無ければただの凡人、いやそれ以下だな!」
「う…うるさいぞ!」
「そーいやお前あの女子とどうなったんだよ?」
「…!それとこれとは関係ないだろ!!」
「いや、関係あるさ。あいつはVV着けてないだろ?今のお前も着けてないから好意でも持ったんじゃね?」
「…!」
その友達の言葉に甲斐はふと考え込んでしまった。友達の言うとおり、美輝は俺がVVを持っていなかったから近づいたのではないかと…。
そう思っていると甲斐の友達はさらに煽(あお)ってきた。
「あの女子はVVの無いお前が好きなんだろうな!だからVVを着けたらあの女子は離れちまうぜ!」
「だけどVVの無いお前はなんの価値もないな!」
「ハハッ!悔しかったらVV着けてこいよ!」
「女を取るかVVを取るか、楽しみだぜ!」
「くっ…!」
屈辱を覚えた甲斐は誘惑に負け、ついに明日に最新のVVを着けて登校することに決めた。美輝のことも気になったが最新のVVを着けた姿を見れば賞賛してくれるかも、と淡い期待を抱いてしまった。そして甲斐はさらに思った。
「信頼度が見れるってあったな…もしもの時はそれで美輝を見てやろう…!」
そして明日を迎えた。
そして次の日、甲斐はVVを着けて学校へ行った。すぐさま甲斐を茶化して笑う友達。
「おっ、結局VVを選んだか。さて、あの女のほうはどうかな?」
煽りに心の中で怒る甲斐であったが、なんとか平常心を保つ。美輝はこんな自分を賞賛するはず。そう思う甲斐であったが…
「おはよう、美輝。」
さっそく美輝に声をかける甲斐。だが…
「…!」
美輝はVVを着けた甲斐を見て、少し悲しんだ顔をした。そんな姿を見て甲斐は怪しむ。
「なんだよ美輝、俺だってVVを着けるさ。」
「…。」
美輝は悲しんだ顔付きのままであった。甲斐は心の中でいらついた。
「「…ったくなんだよ…。そうだ、この最新VVで見てやろう!」」
甲斐は人の信頼度モードで美輝を見た。
だが、VVで見えた結果は想像を超えていた。
「この女性は99%アナタを裏切ります」
VVにはそう示されていた。あまりの結果に甲斐は絶望してしまった。そんな甲斐を見た美輝はむしろ甲斐を心配していた。
「どうしたの?甲斐くん。」
だが当の甲斐は怒りも芽生えてきてしまった。
「どうだっていいだろ。」
甲斐は思わず美輝に冷たくしてしまった。
それが甲斐と美輝が話した最後であった。
次の日、学校に美輝の姿は無かった。それはほんの数日だけでなく、一週間近く経っても学校で美輝に会うことはなかった。そんな中、いろいろな噂が立っていた。そんな噂は中には悪いものもあった。
「最近どうしたのかしらね」
「転校生だけあって問題児だったんだわ。」
「じゃあトラブル起こしたとか~?」
甲斐は美輝が来なくなったのは自分のせいだと思っていた。だが、ふと会話している人をVVで見ると発言の信頼度の機能が発揮された。
「問題児だったんだわ」…22%
「トラブルを起こした」…13%
この機能の凄さに甲斐は改めて驚かされた。すぐさまこの機能で正しい会話を甲斐は探した。そして気になる会話を見つけ、信頼度を測定する。
「甲斐に嫌われたからじゃね」…45%
45%。その値に少し納得した甲斐であったが、そこまで高くない値に疑問を持つ。
「じゃあ本当の理由は何なんだ?」
さらにVVで噂を測定する甲斐。そしてついにある値が測定された。
「重い病気にかかっているらしいよ」…100%
病気の噂を信じた甲斐はすぐさま美輝のいる病院を探すことにした。そのためにあの料理店の主人に会いに行った。
「おや、この前の甲斐くん…だったかな?どうしたんだい?」
「み…美輝はどこの病院にいるんだ?」
「そうか…君は知らなかったんだな、いいだろう、私の料理を喜んでくれたお返しだ、美輝ちゃんがいる病院はここだ。」
泰三さんは甲斐に病院名を告げた。
そして受付で美輝の名前を告げた上で面会の手続きを済ませ、走って美輝の病室へ向かった。そして思いっきりドアを開けた。
「美輝!」
開いた先に美輝は居た。
「甲斐くん…!?」
焦りの表情に満ちた甲斐を見た美輝は思わず泣き出した。そして涙を絞るようにこう言った。
「ごめんなさい、甲斐くん…」
「美輝、俺だって…!」
「いいのよ、甲斐くん。そのVVで知ってるんでしょ…」
「…ああ…重い病気なんだろ…」
「そう…私の病気は99%治らないの。お医者さんが測定してくれたわ。だから…」
美輝は涙を振り絞って言った。
「先に天に召されることを許してね…」
99%…?と甲斐はその数値を思い出した。VVが計測した99%裏切るということはこういうことだったのだと。自分を置いて亡くなる可能性を示していたんだと。
「美輝、治る見込みは無いのか?」
「今すぐ手術をすれば治るかもってお医者さんは言ってるの。でもその手術費はとても高くて・・・」
美輝が告げた額は相当なものであった。あまりの高額さに驚く甲斐。
「そんな大金は無い…でも美輝を助けたい……!」
困る甲斐。すると甲斐はあるポスターに目が留まった。
「そうか…!」
そのポスターにはこう書かれていた。
「「良いVVを下取りします!」」
そう、甲斐はこう考えたのだ。
「そうだ、俺のVVを売ればいいんだ…!しかも俺のVVは世界最高!必ず十分な費用になる!」
しかし甲斐は一方で深く悩んだ。
「…だけど…」
それはVVによって得られる恩恵であった。ましてそれは世界で唯一のVV。それを考えると手放すことに辛さを覚えた。しかし大好きな美輝を救うために、VVを持つことによる賞賛や便利よりも大切な人への愛を優先した。
「よし、VV、最後の仕事だ。美輝を必ず治してくれる信頼のできる名医を探してくれ!」
こうして甲斐は良い医者を見つけ、そしてVVを売り払った。そしてその代金を美輝の手術代にあてた。
一方、美輝は急に自分の手術が始まると聞いて驚いていた。そしてその代金を払ったのが甲斐であったことも…
美輝は甲斐を見つけると思わず感情的に話しかけた。
「甲斐くん!どうしてこんな私を助けたの!?」
「……」
「あれ…、VVはどうしたの?」
「…あれはもう売ったんだ。」
「まさか…何もそこまでしなくても……大切なVVなんでしょ!」
「ああ…以前まではな。だけど美輝と出会って変わったんだ、見えるものがすべてじゃないことを…!」
「甲斐くん…」
「美輝は俺が助けてやる!!!」
そして手術の日…
「甲斐くん。私怖いの…」
「大丈夫さ、美輝」
手術の成功率は今の自分には分からなかったが、ベストを尽くした甲斐は数値よりも自分の確信を信じていた。