主人公ゼルハルトとライバルのディートリッヒ
「グハァッ・・・また負けた・・・」
血塗れになった赤髪の青年が地に横たえ、敗北という事実に打ちひしがれていた。
「どうだ?ゼルハルト?これでもまだ諦めないのか?」
そう問いかけたのは、長剣を持った長身の青髪の青年であった。ゼルハルトと呼ばれた赤髪青年はこう言い放つ。
「くそっ…ディートリッヒ・・・次は絶対に勝ってやる・・・!」
そう、ゼルハルトとディートリッヒはライバル同士だ。しかし、いつも勝つのはディートリッヒなのである。
「くっ…確かに今は勝てない・・・だけどレベルがあと1上がればお前と同じレベル99だ!絶対勝ってみせるぞ!」
「フン、せいぜいレベルが上がるまでに命を落とさないようにな。」
捨て台詞を残し、ディートリッヒはその場を離れた。
ゼルハルトがディートリッヒの存在を知ったのは自分がレベル14の頃だった。その時期のディートリッヒのレベルは20であった。当時のディートリッヒの年齢からしてそのレベル値は高い部類にあった。対してゼルハルトはせいぜい中堅ぐらいであった。そんなゼルハルトがディートリッヒをライバル視したのは同じ長剣使いだからであった。
それ以来、ゼルハルトは訓練を重ね、どんどんレベルを上げていった。しかし、それはディートリッヒも同じこと。彼もレベルを上げてゆく。そしていつの日かディートリッヒはレベル99になってしまった。
レベル98のゼルハルト
レベル99・・・それは常人では辿り着き難いレベルであった。その至高のレベルにディートリッヒは達したのだ。
それに対し、ゼルハルトはレベル98には達したものの、その値で止まってしまった。
レベルは上がれば上がるほど、上げるための大いなる努力や経験が必要となってくる。だからこそレベル98からレベル99になるためには相当の訓練が必要であろう。
その後、ゼルハルトは傷を癒しつつ、更なる訓練に励んだ。しかしそれでも自分のレベルは98のまま。あとどれくらいで99になれるのか・・・時にはそれが途方もなく遠くに思えた。
また、別の恐怖も、ゼルハルトは感じていた。それは自分の努力の日々の間に、ディートリッヒがレベル100に上がってしまうのでは、という恐れであった。100どころでない、101・・・102・・・というようにたとえ自分がレベル99になってもまたそれを超されては勝ちようがないのでは…。しかしだからといって訓練を止めて諦めるという考えはゼルハルトには無かった。
「絶対…絶対勝ってみせるんだ……!」
ゼルハルトは尽力した。そして・・・ついにレベル99に到達した。
ゼルハルトの挑戦
レベル99となったゼルハルトはすかさずディートリッヒに闘いを申し込んだ。ゼルハルトのレベルを知ったディートリッヒは普段の冷静さを保ちながらこう言った。
「そうか、御前もついにレベル99になったか。だが、私の今のレベルを知っている訳ではなさそうだな。」
そしてディートリッヒは続けた。
「御前は私のレベルを知りたいか?」
その質問はゼルハルトにあの恐怖を思い起こさせた。99を超すばかりか100、101と・・・。だが、ゼルハルトはこう宣言した。
「俺は努力でレベル99になった。お前のレベルは分からないが、だからといって闘うことは放棄しない。ただ全力で立ち向かうだけだ!」
こうして二人の決戦が始まった。
決戦の結果・・・ゼルハルトは闘いに負けた…。そう、また敗北してしまったのだ。
「クッ・・・何故なんだ・・・何故勝てない・・・・レベル99になったのに・・・」
ゼルハルトはまたも悔しがっていた。だが、ふと気になったことがあった。
「・・・ディートリッヒ、今のお前のレベルは幾つだ?」
そしてさらに畳み掛ける。
「もしかして99を超えて100とかそれ以上になったんだな!そうだろ!はっきりしろ!」
するとディートリッヒは逆にこう問いかけた。
「それを知ってどうしたいんだ?ゼルハルトよ。」
「!」
ふと考えて黙るゼルハルト。その考えを知っているかのように、ディートリッヒは続けた。
「今、お前は俺よりレベルが低いから負けたと思っているのか?」
「ぐっ・・・」
「図星のようだな。フッ・・・ではそんなに知りたければ教えてやろう、私のレベルを。」
ゼルハルトは息を飲んだ。
「私のレベルは99だ。」
結末
レベル99・・・そう、今回の闘いでは両者とも同じレベルだったのだ。
「そ・・そんな・・・レベルが違うどころか同じだったなんて・・・。」
ゼルハルトは大いに動揺していた。するとディートリッヒはこう告げた。
「お前が負けた理由・・・それは同じレベル数値とはいえ、個体ごとの強さは同じでないからだ。」
「なんだって!?」
驚くゼルハルトにディートリッヒは一つの例を挙げた。
「例えばの話だ。レベル99のアリがレベル99のゾウと闘ったら勝てるのか?」
「くっ・・・」
極端な話であったが、あながち間違ってはいない。こうしてゼルハルトはディートリッヒにはもとから勝てない強さでしかなかったのだと今更思い知らされたのであった。
「そ・・・それなら俺はレベル100・・・いやそれ以上を目指す・・・!そしてお前に・・・」
「ああ、言っておくが、どうやらこの世界ではレベルの上限は99のようだぞ。」
「えっ!」
初耳のように驚くゼルハルト。そして驚きは絶望の感情に変わる。
「そんな・・・お前に勝つなんてことは無理なのか・・・」
そんなゼルハルトにディートリッヒはこう尋ねた。
「どうして御前はそんなに私に勝ちたいのか?」
急な質問にゼルハルトは戸惑いながら答えた。
「つ・・・強くなりたいからだ・・・!昔からお前を超したかった・・・お前さえ・・・お前さえ倒せば・・・」
「フッ・・・御前はすでに強いではないか。レベル99などそう簡単に到達できるものではない。そして私を超したいようだが、超して何になる?」
その質問にゼルハルトは黙ってしまった。答えられなかったのだ。その様子を見て、ディートリッヒはこう言った。
「では私と組まないか?」
それは意外な提案であった。ディートリッヒは続ける。
「実は私にも苦手な分野があってな。御前はそこを補完してくれる存在だと前から気付いていたのだ。」
またもや驚くべき内容にゼルハルトは声を失った。
「だからな、二人で組んで最強を目指そう。尤も、今の御前がこれに賛同するかどうかは難しいかもしれないがな。」
ゼルハルトは迷っていた。しかしいつかその答えを自分で出すことだろう。孤高の強さか、あるいは独りでなく他者と築き上げる強さかを。